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札幌地方裁判所 昭和49年(ミ)5号 決定 1976年7月21日

更生会社

株式会社本間工務店

右管財人

辻野喜郎

標記事件につき管財人から更生手続廃止の申立てがあつたので、当裁判所は、昭和五一年五月二一日午後二時の期日において利害関係人の意見を聞いたうえ、つぎのとおり決定する。

主文

本件更生手続を廃止する。

理由

本件記録によればつぎの事実が認められる。

更生会社株式会社本間工務店は、昭和四九年一〇月八日当裁判所に対し、更生手続開始の申立てをなし、昭和五〇年二月二八日、当裁判所によつて更生手続開始の決定がなされ、管財人作成にかかる更生計画案は同年七月一八日の関係人集会において可決され、同日当裁判所において認可された。

右更生計画によれば、弁済すべき更生債権および更生担保権は、更生債権の利息の一部のみを免除したその余の総額一億二、四二五万三、四八七円とし、これを別紙債務弁済予定総括表記載のとおり(各年度分につき翌年一月末日限り弁済する。)分割弁済することとしたうえ、弁済資金については、従来の経営上の諸欠陥(会社財産と個人財産の混同、資金繰りの無理な事業拡張等)の是正を前提としたうえで見込まれる営業活動による収益金(経常利益に減価償却費相当分を加えたもの)、昭和五〇年度〇、同五一年度二五〇万円、同五二年度三七五万円、同五三年度六五〇万円、同五四年度八二五万円の計二、一〇〇万円、既に一部の更生債権のため担保権の設定されている本間純一個人の所有にかかる資産の売却を予定し、その売却金のうちから更生会社において提供を受ける予定の七、四一六万円、本社社屋およびその敷地等不用会社資産の売却を予定し、これによつて見込まれる売却金三、〇〇〇万円をもつてこれに充て、その残額は営業継続に必要な運転資金に充当することとされていた。以上のとおり、認可後の営業活動によつて見込まれる収益金は弁済すべき更生債権、更生担保権の僅か約一七パーセントにすぎず、弁済資金の大半は前示のように個人資産売却金の提供、不用会社資産の売却金をもつて調達すべきこととなつていたものである。

ところで、本件更生会社は、計画初年度(昭和五〇年七月一九日から同五一年一月三一日まで)において、計画弁済を終了し、三一〇万余円の経常利益を計上したが、計画二年度目の本年度(昭和五一年二月一日から同五二年一月三一日まで)においては現在までのところ、前示の個人資産に所有権移転仮登記を付した一般更生債権一、二一一万五、七三八円を、同資産の一部で代物弁済しただけで、その余の七、三三六万一、四九八円は、昭和五二年一月三一日までに弁済を終えなければならない。そのためには、当初予定された収益力(本年度については営業活動による収益金が二五〇万円と見込まれる)を前提としても、右個人資産の売却(現在の時価は五、一二〇万円程度)、および、予定された会社資産の売却が必要不可欠であり、そのいずれか一方でも実現しないときは、右計画に従つた弁済は到底不可能な状況にある。しかるに、本間純一は管財人からの再三に亘る申し入れにもかかわらず、右資産の売却に着手しようとしないばかりか、売却予定の本社社屋については、その中央の一画の建物部分に有限会社本間産商(更生手続開始申立時・代表者は本間純一)名義の区分登記がなされているが、右建物部分についてはすでに昭和四八年三月、右本間産商から更生会社に営業譲渡がなされているのに本間純一らは、認可決定後においても、更生会社への移転登記手続に応じようとしないため、その敷地を含めた右社屋の売却は、事実上不可能となつている。これに加え、更生会社が本件更生計画を遂行する過程で、本間純一を代表者とする各会社経営の独自性が必ずしも明らかでなかつたことから、更生会社と本間純一らとの間に建築材料の所有関係等をめぐつて争いが絶えず、また、本間純一において、昭和五〇年一二月頃から、右本間産商、あるいは、個人の名をもつて更生会社と競合関係に立つ建築事業を開始するに至つたため、更生会社の事業継続に著しい支障が生じ、このままでは徒らに共益債権のみが嵩むことが予想されたため、これを慮つた管財人において、既に受注した工事を他の会社に引き受けてもらうなど営業の縮少を図り、漸次従業員も解雇して現在では管財人付ほか一名を残すだけで他は更生会社のもとを去つている。更生会社は右のような事情のため、本年度においては一、〇一六万余円の損失を計上し、累積欠損金は六、九四六万二、〇四一円となつているものであり、従つて、仮に今後前示個人資産の提供がなされたとしても、これによつて更生会社が得るべき私財提供金は五、一二〇万円程度にすぎないから、債務超過の状態はもはや解消しえない事態となつている。

以上の事情を総合勘案すれば、本件更生会社について、更生計画遂行の見込がないことは明らかである。

よつて、会社更生法第二七七条を適用して、主文のとおり決定する。

(稲垣喬 増山宏 高橋勝男)

年度別債務弁済予定総括表

年度区分

1

2

3

4

5

合計

備考

債権

50年度

51年度

52年度

53年度

54年度

1

更生担保権 4件

10,630,911

10,630,911

2

優先的更生債権 2件

196,260

196,260

3

一般更生債権

物上保証を有する債権

2件

51,425,840

51,425,840

本間純一個人財産の処分により弁済

4

個人資産に所有権移転仮登記を付した債権 1件

(2,000,000)

12,115,738

14,115,738

同上

5

元本160万円以上の債権

10件

(1,500,000)

6,175,686

7,675,686

7,675,686

7,675,685

30,702,743

6

元本100万円~160万円の債権 8件

2,549,148

2,549,148

2,549,148

2,549,148

10,196,592

7

元本50万円~100万円の債権 6件

1,535,657

1,535,657

1,535,676

4,606,990

8

元本15万円~50万円の債権 7件

1,044,256

1,044,257

2,088,513

9

元本15万円以下の債権

5件

289,900

289,900

10

本間純一他の一般債権

2件

(4,619,422)

計画完了後返済

合計

3,986,160

内350万円は株式にて弁済( )内は株式にて弁済

85,477,236

12,804,748

11,760,510

10,224,833

124,253,487合計額には本間一族の4,619,422円は含まない

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